「Ultimate Play」PRAYROOM,Mito,2021
“Ultimate Play”
この5月にここキワマリ荘を閉じることになった。最後にGW辺りにイベントとか展示とかしたいねって3月頃に話していて、ぼんやりと遊戯室で何かしたいなって思いつつ、4月に札幌の個展があってその準備でバタバタしている真っ最中であったのもあり、特に何も決まってないままにあっという間に時間が過ぎた。成り行きで札幌個展には自家用車に作品を詰め込んでフェリーで搬入に向かうことになり、帰り道、のんびり車で寄り道なんかしながらうろうろして、その途中であったことや思いついたことなんかをモチーフに旧作なんかも混ぜつつ展覧会を作ってみることにした。内容は決まってなかったけどタイトルの輪郭だけは先に決まっていて、「キワマリ荘」と「遊戯室」をかけて、「極まり遊戯」とか「究極の遊び」、「遊びの極み」みたいなかんじの意味のほど良さそうな英語のタイトルにしようって気分でいた。もちろん内容なんか全然決まってなかったからたぶん作品とタイトルはちぐはぐするんだろうけど、たぶんそれでいいやって思った。
搬入からの帰り道で、二週間弱くらいかけて茨城に戻ってきた。スキー板を積んで、春スキーができそうなところに立ち寄って一滑りしたり、本を渡してまわったり、おそるおそる友人に会ったり、美術館やアートスペース、美術大学なんかものぞいたりしてなかなかいい時間だった。震災の後、常磐線が動き出した4月に東京から関西、九州くらいまでを2週間くらいかけて電車で友人知人を訪ねてまわったことがあったんだけど、このコロナ状況もありつつ、その時のことをなんだかいろいろ思い出したりする時間だった。
今年の2月の豊田市でのグループ展に参加した時に、虹の七色のミシン糸を使った「Rainbow」という作品を再制作した。もともと2011年5月の東京での個展のためのに制作したもので、震災直後の時期だったのもあり、制作中は悩ましかったしいろいろと大変だったのを覚えている。「パラレル」と題した展覧会で、それぞれの異なる状況や考えの違いの中、わかり合うことの不可能さ、交わらない平行線としてのパラレルが、見方によってはどこまでも隣で寄り添うような状況にも捉えられたりすることをテーマとして、この「Rainbow」やスキー板を使った作品なんかが象徴的に機能していた。それから10年くらい経ってみて、今の状況にもなんだかしっくりきそうだなと再制作することにした。
車を運転しながらだらだらと考え事をする。まだ雪の残るスキー場を目指しながら、雪山をモチーフにするのもいいなって思いつつ、雪山に虹ってなんかいいなって土砂降りの中で盛り上がり、そんな風景どこかで見たことあったかなと記憶を辿るがどうやらそんな都合のいい場面には出会ったことがなかったくさい。それから一時間くらい走り、景色に雪が目立ち始めた頃に青い空が少しのぞき、山の向こうに虹が見えた。現実はたまに想像より都合がいい時がある。友人の家に向かう約束の時間までしばしあったので、虹の麓を目指して少し車を走らせてみることにした。途中、まっすぐの道が続く、開けた場所に着いて虹の全部が見渡せたのでぼんやり眺めてた。写真には映らなかったけど右を向くと上の方を雲に覆われた羊蹄山が堂々としててなんだか不思議な光景だった。どこまで行っても麓には辿り着かず、日が落ち始め、いつの間にかまた雨が降っていた。
翌日はスキー場へ、いい天気だったけどだんだん冷え込み夕方には雪が降り始めた。茨城では桜が散ってだいぶ経ってたけど、ここでは夜になる頃にはしっかりとした春の雪が降っていた。友人宅に帰ると、熊本から送ってもらったというとても甘い立派なスイカが出てきた。もう季節がアベコベでいろいろおかしい。中学生になったももちゃんが、前の年に庭にスイカの種を飛ばしてたらそこから芽が出て、小さなスイカができて美味しかったって話をしてたから、一人で雪景色の中で種飛ばしをするために外に出てみた。すっかり雪も止んで、ものすごいたくさんの星が見えた。雪の上に飛び散ったポツポツとした黒い種が、色が反転して空から星が落ちてきたみたいに見えて、慌てて写真を撮ってみたけど、星も種も写るわけもなく、心に留めてこっそり持ち帰ることにした。
なんとなくだけどそういう二日間のことをモチーフにした展覧会にしてみることにして、水戸に帰ってきてから急いで展示の準備を始めたわけだけど、そんな最中の雨上がりの夕暮れ時にキワマリ荘から虹が見えた。うろうろしてたらキワマリ荘から虹が出てるみたいにも見えて、なんだか長いことありがとうございましたって言いたくなった。
中﨑透
photo by NAKATA Emi